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原文
夏の夕暮れは本当に綺麗だ。
空は青から紫に、太陽は白から赤になる。世界が一時だけ紫に染め上げられる。無機質な壁も、道もが時々刻々と変化する紫に支配される。白く積み上がった雲から雷鳴が轟いて、夕立が近いと教えてくれる。急に降りだした雨は、突然気が変わって止む。それを知ってか、知らずか足早に人も車もただ走り抜けていく。
何もかにもが紫に染まろうとしている、その中で太陽と空だけがそれを許さない。
湾曲した橋と川に挟まれて、太陽が真っ赤な目になる。その目がみつめてくる、微笑を浮かべて。それに微笑み返す。
川に沈む空はまだ夕方で、反対に海に沈む空はもう夜で、その中間にいる今だけ紫が綺麗。今の、ここだけが一番綺麗。世界の中で一番ここだけが、綺麗に染まっている。
歌いたくなって、鼻歌を歌う。跳ねたくて、スキップする。楽しくて橋の欄干に乗ってみる。装飾のない金属の欄干。無機質なそれが今だけ紫に染め上げられて、綺麗。その上をリズムに乗せて歩く、金属リズムに歩調を合わせて。
今、この一瞬に染まりたい。この一瞬だけだから、この時を愉しむ。雲が光って、少しだけ世界を魅了した。その世界に透けたい。
身体を捻って太陽を背中に背負ってみた、夜の星が雲の切れ間に見え隠れした。川風が髪を撫で上げる、無色のそれが心地良かった。
風に身を任せて、腕を広げた。欄干から足を離した。
世界が優しい光に包まれる。
一緒に歩いていた友人が突然足を止めたかと思うと、これまた突然に鼻歌混じりでスキップを始めた。周りから白い目で見られるのも最近は慣れてきた、全部奇妙な友人のおかげだ。それだけならまだ良かった。川に架かった橋の欄干へ軽々と上り、跳ねるように渡り始めた。流石に止めようとしたが、下手に止めるとそれこそ落ちてしまう。
「降りなよ」
何が楽しいのか、揺れる欄干の上にいる馬鹿に警告の声は届かない。何度声を掛けても、まるで自分が存在していないかのように聞き入れてはもらえない。白昼夢を見ているのか、頭がどうかしたのか不安だった。
そしてその不安は的中する。影が一瞬にして消えた。慌てて目で追うが太陽光に目が痛む。前後を探す暇もなく、大きな水音がした。
音につられて欄干にしがみつき橋の下を覗きこんだ、探していた紺色が見つかった。飛沫が音を立てて川に降り注ぐ、その中から頭を出して顔についた水を拭う大馬鹿がいる。
「何してんだよ!」
叫んで川辺に降りる階段を探して、走った。服を着たまま川を泳いでくる戯けが、自分のいる岸まで辿り着いた時なんて言えばよかったのだろうか。「馬鹿が」「死ぬ気か」「服着て泳ぐな」どれもこれも間違っている気がしてならなかった。
「鞄は?」
耳を疑った。ずぶ濡れで岸に這い上がって来た第一声がそれだった。何を言っているのか分からなかったが、分かった途端に怒りが込み上げてきた。
「お前は馬鹿か! 死ぬ気?」
「死ぬ? 川の水量と橋の高さからして無理で、渡した鞄を置いてきた方が馬鹿じゃない? 気にしないけど」
反論されて詰まった。怒りが言葉にならない、喉まで上がってくるのに。
「そんなに濡れて帰る気?」
「勿論。もう直ぐ夕立がくるから、傘がないなら濡れて帰るのに変わらない」
呼応するように音を立てて雨が降り始めた。してやったりと友人が笑った。
「ほら、君も濡れた」
全部ひらがなバージョン
なつのゆうぐれはほんとうにきれいだ。
そらはあおからむらさきに、たいようはしろからあかになる。せかいがいちじだけむらさきにそめあげられる。むきしつなかべも、みちもがじじこくこくとへんかするむらさきにしはいされる。しろくつみあがったくもかららいめいがとどろいて、ゆうだちがちかいとおしえてくれる。きゅうにふりだしたあめは、とつぜんきがかわってやむ。それをしってか、しらずかあしばやにひともくるまもただはしりぬけていく。
なにもかにもがむらさきにそまろうとしている、そのなかでたいようとそらだけがそれをゆるさない。
わんきょくしたはしとかわにはさまれて、たいようがまっかなめになる。そのめがみつめてくる、びしょうをうかべて。それにほほえみかえす。
かわにしずむそらはまだゆうがたで、はんたいにうみにしずむそらはもうよるで、そのちゅうかんにいるいまだけむらさきがきれい。いまの、ここだけがいちばんきれい。せかいのなかでいちばんここだけが、きれいにそまっている。
うたいたくなって、はなうたをうたう。はねたくて、すきっぷする。たのしくてはしのらんかんにのってみる。そうしょくのないきんぞくのらんかん。むきしつなそれがいまだけむらさきにそめあげられて、きれい。そのうえをりずむにのせてあるく、きんぞくりずむにほちょうをあわせて。
いま、このいっしゅんにそまりたい。このいっしゅんだけだから、このときをたのしむ。くもがひかって、すこしだけせかいをみりょうした。そのせかいにすけたい。
からだをひねってたいようをせなかにせおってみた、よるのほしがくものきれまにみえかくれした。かわかぜがかみをなであげる、むしょくのそれがここちよかった。
かぜにみをまかせて、うでをひろげた。らんかんからあしをはなした。
せかいがやさしいひかりにつつまれる。
いっしょにあるいていたゆうじんがとつぜんあしをとめたかとおもうと、これまたとつぜんにはなうたまじりですきっぷをはじめた。まわりからしろいめでみられるのもさいきんはなれてきた、ぜんぶきみょうなゆうじんのおかげだ。それだけならまだよかった。かわにかかったはしのらんかんへかるがるとのぼり、はねるようにわたりはじめた。さすがにとめようとしたが、へたにとめるとそれこそおちてしまう。
「おりなよ」
なにがたのしいのか、ゆれるらんかんのうえにいるばかにけいこくのこえはとどかない。なんどこえをかけても、まるでじぶんがそんざいしていないかのようにききいれてはもらえない。はくちゅうむをみているのか、あたまがどうかしたのかふあんだった。
そしてそのふあんはてきちゅうする。かげがいっしゅんにしてきえた。あわててめでおうがたいようこうにめがいたむ。ぜんごをさがすひまもなく、おおきなみずおとがした。
おとにつられてらんかんにしがみつきはしのしたをのぞきこんだ、さがしていたこんいろがみつかった。しぶきがおとをたててかわにふりそそぐ、そのなかからあたまをだしてかおについたみずをぬぐうおおばかがいる。
「なにしてんだよ!」
さけんでかわべにおりるかいだんをさがして、はしった。ふくをきたままかわをおよいでくるたわけが、じぶんのいるきしまでたどりついたときなんていえばよかったのだろうか。「ばかが」「しぬきか」「ふくきておよぐな」どれもこれもまちがっているきがしてならなかった。
「かばんは?」
みみをうたがった。ずぶぬれできしにはいあがってきただいいっせいがそれだった。なにをいっているのかわからなかったが、わかったとたんにいかりがこみあげてきた。
「おまえはばかか! しぬき?」
「しぬ? かわのすいりょうとはしのたかさからしてむりで、わたしたかばんをおいてきたほうがばかじゃない? きにしないけど」
はんろんされてつまった。いかりがことばにならない、のどまであがってくるのに。
「そんなにぬれてかえるき?」
「もちろん。もうすぐゆうだちがくるから、かさがないならぬれてかえるのにかわらない」
こおうするようにおとをたててあめがふりはじめた。してやったりとゆうじんがわらった。
「ほら、きみもぬれた」